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よもやまノンキインドネシア (第39回)
「大事なのは学歴か誠実さか 学歴詐称疑惑に見る政治家の誠実さ」 

2025. 07. 15 | その他

「卒業しました」と一言で言うのは簡単だ。しかし、その背後にある事実が曖昧だった時、その人に対する信頼は揺らぐ。いま日本で話題の伊東市長学歴詐称疑惑と、インドネシアの元大統領に向けられている卒業証書偽造疑惑。この二つの出来事は国を超えて共通点を持ち、「学歴」と「信頼」のあり方を問いかけている。

静岡県伊東市で市長に初当選した田久保氏が、市の広報誌で「東洋大学法学部卒業」と記載していたことから端を発した学歴詐称疑惑。「実は卒業していないのではないか」という市民の投書に対し田久保氏が「怪文書」と発言したことから雲行きはどんどんと怪しくなる。大学に確認すると実際は「除籍」だったことが判明。しかし、田久保氏は選挙期間中には卒業と言っていないので公職選挙上の問題はないと釈明し、むしろ市民の不信感を大きくさせた。そして、多くの人が一番早い解決法であると思っている卒業証書の提示に対し、議長らに見せた“卒業証書”は「卒業を証明するものとしては機能しなくなってしまった」と意味不明な回答で提出を拒否。加えて、卒業と思っていたが本人の把握しないうちに除籍に“変わった”との発言に、市民が呆れかえっている。

インドネシアでも同様に、卒業証書疑惑が長きにわたって大きな波紋を呼んでいる。ジョコ・ウィドド元大統領(通称ジョコウィ氏)に対しての卒業証書偽造疑惑である。まず、2019年にある人物によって、ジョコウィ氏の高校卒業に関する問題が提起された。ジョコウィ氏が1980年に卒業としたとされるソロ第6高校は89年創立ではないか?よって卒業証書は偽造ではないか?という疑惑である。そして3年後の2022年にはガジャ・マダ大学の卒業証書偽造に対する疑念も湧き上がっており、現在でもこの2件について捜査や訴訟が続いている。

ジョコウィ氏の大学卒業証書には、写真が同一人物ではない可能性が高い、卒論の書式が発行当時のものと似通わない、当時存在しないフォントが使われているなど、多くの疑義があると指摘されている。それに対し、ジョコウィ氏は事実無根として反論している。しかし、興味深いのはジョコウィ氏側は「必要であれば裁判所に原本を提示する」と主張しているが、報道陣には卒業証書の撮影を許可せず、情報公開に消極的な姿勢を貫いている点だ。田久保氏の“卒業証書”とされるものをメディアに提示しない対応と似ているといえる。ちなみに、田久保氏は市長を辞任し一般人になったうえで、地検に提出するため今後も公開できないとした。いわば抜け道のような名分で“卒業証書”とされるものを公開しない悪手をとった。

ただ、本質的な問題は卒業証書そのものではない。重要なのは有権者や国民に正直であるか、過ちを認められる潔さを持ち合わせているかである。市長であれ大統領であれ、政治家は市民に選ばれる立場であり、信頼が命である。「卒業していないが、“卒業証書”はある」という非論理的な発言や「原本はあるが撮影や一般への公開は禁ずる」という邪推を呼ぶ行動が、マイナスにしか作用しないのは明々白々たる事実である。

もちろん、誰しも間違いや記憶違いはあるだろう。だが、重要なのはその誤りを指摘された時に、どのように対応するかである。すぐに事実確認をして、必要があれば謝罪した上で誠実に説明する。それが信頼を取り戻す唯一の道である。

学歴は「学力」や「能力」を測る指標として一定程度目安になるだろう。しかし、学歴だけで政治家の資質を測ることはできない。学歴だけで政治家を選ぶような有権者もほぼいないだろう。

「どんな経歴であっても、自分の言葉で説明し責任を持つ」姿勢こそが、求められるリーダー像である。直面している問題は、まさにこの「説明責任」という一点に集約される。市民の信頼は、一度失えば取り戻すのが難しい。卒業証書1枚の真偽が、なぜここまで問われるのか。それは単に紙の問題ではなく「信頼できる人物かどうか」という本質に関わる問題だからにほかならない。

<大塚 玲央>

1987年長野県生まれ。親の仕事の関係で幼少より転校を繰り返し、高校時代はシンガポールで過ごす。大学卒業後、放送局や旅行代理店勤務を経て現職。2011年よりインドネシア在住。趣味ゴルフ、野球。

大塚 玲央 メールアドレス:reo.fantasista@gmail.com

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※本レポートは筆者の個人的見解であり、PT. Japan Asia Consultantsの公式見解を示すものではありません。