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よもやまノンキインドネシア (第53回)
「生まれるパンダと消えるパンダ  対中外交で分かれる距離感」

2026. 01. 13 | その他

アジアの片隅で“柔らかな外交辞令”として振る舞われてきたパンダが、象徴そのものを変えつつある。日本で長年愛されてきたパンダが、初来日以来、初めて国内から姿を消す一方で、インドネシアではパンダが初めて赤ちゃんを産んだ。この対照的な出来事は、単なる動物ニュースではなく、三国の外交と国内政治の温度差を映す鏡でもある。

まず、日本の状況を整理すると、東京・上野動物園で人気を博していた双子のパンダ「シャオシャオ」と「レイレイ」が、今月下旬をもって中国へ返還されることが決まった。中国が貸与していたパンダは、日中関係の悪化によって後継の貸与が難しいとされ、これにより日本は約50年ぶりにパンダ不在国となる見込みである。高市首相の「台湾有事発言」が影響しているのは間違いないだろう。長年、パンダは「日中友好の象徴」とされてきた。来園日には行列ができ、帰国が決まればニュース速報が流れる。その熱狂ぶりは、時に国際政治の緊張を一時的に忘れさせる装置として機能してきた。しかし近年、その距離感は変わりつつある。関係は慎重から強硬へと傾き、日本の対中姿勢がそのまま檻の中に表れている。

対照的なのがインドネシアである。中国から貸与されたパンダの間に、初めて赤ちゃんが誕生した。これは単なる繁殖成功ではない。インフラ投資、経済協力、人的交流。その延長線上に、パンダの出産という成果が位置づけられているのだ。この国ではパンダが「中国の贈り物」という位置づけにとどまらず、すでに文化の一部として受け入れられている。インドネシアは実利を求めつつ、中国との関係を深化させている。

ここで、インドネシアの巨大インフラプロジェクト「WHOOSH(ウーシュ)」を思い起こすべきだろう。これはジャカルタとバンドンを結ぶ東南アジア初の高速鉄道であり、中国の支援と技術を基盤に進められた。日本の新幹線技術が当初検討されたものの、インドネシア政府は日本を袖にし、財政的観点から中国案を選択したという経緯がある。その結果、開業から2年が経過した現在も債務は膨らみ続け、そのツケを今、払わされている。それでも、インドネシアにとって中国は、警戒すべき大国であると同時に、無視できない実利の相手である。南シナ海問題では距離を保ちつつ、経済では現実的に付き合う。その絶妙なバランス感覚が、パンダ外交にも表れている。赤ちゃんパンダは、可愛らしさの裏で「関係は順調だ」という無言のメッセージを発しているのかもしれない。

では、中国は何を見ているのか。中国にとってパンダは、友好の証であると同時に、信頼度を測る指標でもある。貸すが、所有権は渡さない。生まれた子も中国籍だ。この厳格なルールは、柔らかな笑顔とは裏腹に主導権がどこにあるかを明確に示している。パンダを受け入れることは、中国のルールも受け入れろという無言の圧でもある。

パンダの誕生と不在は、善悪の話ではない。そこにあるのは、各国の対中戦略の違いだ。日本は価値観と世論を重視し、インドネシアは現実と関係良化を優先する。中国はその両者を見極めながら、静かにカードを切っている。そのカードが、白黒の毛皮を纏っているだけの話である。パンダ自身は行く場所を選べない。主張もしない。それでもどの国に残り、どの国を去るかで多くを語ってしまう。来日当初“客寄せパンダ”という言葉を生み出すほどに国民を熱狂に巻き込んだパンダが日本からは消え、インドネシアで生まれたという事実は、三国関係の現在地を示すこれ以上ないほど分かりやすい比喩なのかもしれない。

パンダに罪はないし、インドネシアの“パンダカード”に対する考え方もどうでもいい。ただ、パンダを外交材料とし、その動向に一喜一憂させ、顔色をうかがわせるような国には与しない。国益を軸に、是々非々で向き合う高市政権の断固たる対中姿勢を強く強く支持する。

<大塚 玲央>

1987年長野県生まれ。親の仕事の関係で幼少より転校を繰り返し、高校時代はシンガポールで過ごす。大学卒業後、放送局や旅行代理店勤務を経て現職。2011年よりインドネシア在住。趣味ゴルフ、野球。

大塚 玲央 メールアドレス:reo.fantasista@gmail.com

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※本レポートは筆者の個人的見解であり、PT. Japan Asia Consultantsの公式見解を示すものではありません。