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よもやまノンキインドネシア (第58回)
「親睦を兼ねた相互扶助の思い アリサンという名の社交システム」

2026. 04. 1 | その他

「もあい」と聞くと私が真っ先に思い浮かぶのはイースター島にある巨大な顔の石像「モアイ像」なのだが、沖縄の人は「模合」がより馴染み深いのだという。この模合とは何かというと、メンバーで一定額出し合った資金を自分の番が回ってきた際に総取りできるシステムで、基本的には月1回程度のペースで懇親会を兼ねて行われることが多い。

実はインドネシア文化の1つによく似た「Arisan(アリサン)」と呼ばれるものがある。友達同士や会社の同僚、近所の人などメンバーはアリサンによって様々だが、たいていは気の合う仲間内で構成されている。お揃いのドレスで高級レストランに集まる女性たち、持ち寄った手料理を中心に車座で他愛もない話に興じるご婦人、そんなアリサンの1シーンがSNS上に溢れている。アリサンも基本的には模合と同じで射幸性や勝敗とは無縁であり、利益や損失が生まれることはない。参加人数分を1タームとして開催され、必ず一人一回受け取る番が回ってくるので、タイミングの差こそあれ、平等なシステムとなっている。

例えば10人でアリサンを結成したとする。月に一度10人が一堂に会し、1人50万ルピアずつ出し合うと仮定する。そうして集まった500万ルピアを10人の中からくじ引きなどで選ばれた1人が手にする。臨時収入を得たかのように感じられ、大きな買い物をするもよし、旅行に行くのもよし、使い道の選択肢が普段より広がる。最初に当たった人は残り9回は毎回50万ルピアを拠出するだけで、当選の権利を持たずに参加することとなる。最終的な損得は発生しない。にもかかわらず、人々はこの仕組みに熱心に参加する。銀行口座も電子決済も普及した現代において、わざわざ顔を合わせて現金をやり取りする行為は、一見すると非効率の極みである。だが、効率だけでは測れない価値がそこには潜んでいる。

では、何のためにやっているのか。1つは「相互扶助の精神」である。インドネシア社会、とりわけイスラム文化の影響下にある地域では、困ったときはお互い様という価値観が根強い。アリサンにおいても、急にまとまった資金が必要になった人がいれば、順番を調整し優先的に受け取らせることがある。利子も担保もない、いわば人間関係を信用とした「無利子融資」である。金融機関がリスク管理に躍起になる時代にあって、なんとも牧歌的な仕組みだが、成立しているのは相互の信頼が前提にあるからにほかならない。

そしてもう1つはメンバー同士で定期的に親睦を図り、絆を深める場となるからだ。以前、会社の同僚とのアリサンに参加したことがある。転職や退職で職場を離れた者が律儀に顔を出し続けていた。金銭のやり取りは口実に過ぎず、実態は人間関係の確認作業である。お金という目に見えるものよりも根底でしっかりとした信頼関係があって成り立っている会なのだと実感したのを覚えている。

会社の運転手が集まって1人10万ずつで行うものは前者の側面が強いだろう。対して、着飾ったマダムたちが高級ホテルに集まりその何十倍もの金額でやっているのは後者だろう。ただ、どちらもアリサンとしてインドネシア社会に根付いた文化なのである。

とりわけ宗教に対して距離を置きがちな日本人には、特に9.11以降「イスラム教=過激で危険」といったイメージがついてしまっているように感じるが、当地に住むとこういった相互扶助の精神を感じるシーンによく会遇する。何事も一部の断片的な情報だけで判断せずに、包括的な視点が重要であると改めて肝に銘じたい。

<大塚 玲央>

1987年長野県生まれ。親の仕事の関係で幼少より転校を繰り返し、高校時代はシンガポールで過ごす。大学卒業後、放送局や旅行代理店勤務を経て現職。2011年よりインドネシア在住。趣味ゴルフ、野球。

大塚 玲央 メールアドレス:reo.fantasista@gmail.com

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※本レポートは筆者の個人的見解であり、PT. Japan Asia Consultantsの公式見解を示すものではありません。