作成者:小川 翔司
皆さま、こんにちは。
当ブログをご覧いただき、ありがとうございます。
Japan Asia Consultantsの小川と申します。
私が初めてジャカルタを訪れたのは、2014年の出張がきっかけでした。入国日がちょうどジョコ・ウィドド大統領が初当選を果たした大統領選挙の投票日(インドネシアでは祝日)だったことを、今でもよく覚えています。それ以来、インドネシアに携わるようになって10年以上が経ち、ジャカルタがすっかり馴染み深い場所になりました。
この10年の間に、ジャカルタの都市インフラは大きく進化しました。現地での生活を通して、日々そのスピードとスケールを肌で感じています。なかでも印象的だったのが、2018年のアジア競技大会に向けた道路整備、そして2019年に開通したMRT(都市高速鉄道)です。弊社オフィスがあるスディルマン通り周辺も、いまでは東京やシンガポールのビジネス街と比べても遜色のない都市機能や景観が整ってきました。
私自身も今年1月からMRTで通勤を始めて、半年ほど経ちました。日々利用する中で見えてきたMRTの便利さや意外な課題、そしてちょっとした気づきなどを、今回のブログでご紹介できればと思います。
ジャカルタMRTの概要
ジャカルタMRTは、インドネシア初の本格的な都市高速鉄道として、2019年にフェーズ1(第1期区間)が開業しました。南北線(Lebak Bulus〜Bundaran HI)は全長約16kmで、13駅を結んでいます。2024年時点では、1日あたり平均10万人前後の乗客数(MRT Jakarta社発表)を記録しており、交通渋滞が深刻なジャカルタにおいて、日々の移動に欠かせない手段になってきています。運賃は距離制で、初乗りはRp 3,000(約30円)から、最長区間でもRp 14,000(約140円)ほどと、日本と比べても非常にリーズナブルです。
このMRTプロジェクトは、日本政府のODA(円借款)を活用した日イ両国の協力によって実現したもので、設計・建設・車両の納入だけでなく、運行管理や保守体制の構築まで、日本企業が広く関与しています。弊社のお客様にもMRTプロジェクトに携わった企業がいらっしゃいます。そうしたお客様へのサポートを通じて、間接的ではありますが、都市インフラの発展に関われたことは、コンサルタントとして大きなやりがいを感じた経験でした。
営業や出張で「使える」MRT
MRTの開業により、慢性的な交通渋滞で知られるジャカルタの都市交通に一定の改善が見られました。加えて、MRTの時刻表をもとに移動計画を立てられるようになったので、ビジネス街でのスケジュール管理もより効率的になったと感じます。
私自身もMRT通勤を始めて実感しているのは「時間の読める移動」のありがたさです。以前は車での移動が中心で、時間帯によっては同じ区間でも所要時間が倍以上に膨らむこともありました。例えば、日本人街としても知られるブロックMエリアから、弊社最寄り駅のスナヤン駅まで、MRTならわずか5分です。車だと、渋滞すると30分かかることも珍しくありません。
また、公共交通を使うことで、移動中にメールチェックや資料の最終確認ができる点も助かります。私は車に酔いやすく、移動中の車内でパソコンやスマホを見ることが難しい体質なので、「10年前にこのMRTがあったら便利だったのに」と今の環境を羨ましく思うこともあります。
日本との比較
日本の地下鉄や都市鉄道に慣れた私たちにとって、ジャカルタMRTには「日本と似ている部分」と「異なる部分」の両方があります。私自身の体験をもとに、印象に残った点をいくつかご紹介します。
日本と似ている点
・清潔感
駅構内や車両内は清掃が行き届いており、利用者のマナーも概ね良好です。なお、日本とは異なり、飲食が全面的に禁止されていることも、清潔さを保つ一因かもしれません。
・定時運行
時間にルーズなイメージのあるインドネシアとは思えないほど、遅延がありません。半年間ほぼ毎朝同じ電車に乗っていますが、一度も遅延を経験していません。
・女性専用車両の導入
通勤時間帯などには女性専用車両が設定されており、安心・安全への配慮が感じられます。とはいえ、慣れない利用者がうっかり乗ってしまうことも多いようで、警備員が巡回して案内する光景をよく見かけます。
日本と異なる点
・セキュリティーチェック
日本と違い、ジャカルタのMRTではセキュリティーチェックがあります。ブロックM駅ではX線装置を使ったチェックですが、スナヤン駅では警備員による目視のチェックが中心で、駅ごとに運用方針が異なるようです。
・乗り換えや接続の選択肢が少ない
現時点では1路線のみのため、移動の自由度には限界があります。本数も5分~10分間隔の運行で、東京やシンガポールなどと比べて、都心のMRTとしてはやや少なめです。
・キャッシュレス化の徹底
QRコード決済や電子マネーが標準で、現金は基本的に使えず、キャッシュレスの浸透度では日本より進んでいる面もあります。一方で、電子マネーなどを改札でかざしても反応速度が遅かったり、読み取りエラーが頻発したりする点は改善の余地があると感じます。
フェーズ2と利便性拡大への期待
現在進行中のMRTフェーズ2(北方向の延伸)は、Bundaran HI駅からKota駅までをつなぐ区間です。計画では、2027年の部分開業、2030年頃の全線開通を目指して段階的に工事が進んでいます。
今後、LRT(軽量軌道交通)など他の公共交通機関との接続が進めば、ジャカルタは「車がなくても快適に移動できる都市」へと近づいていくはずです。ただし、ハード面の整備に加え、運行本数やICカードの読み取り精度といった日々の利便性を支える「ソフト面の改善」も、今後の定着においては欠かせない要素だと感じています。MRTが今後も「使い続けられる」ための継続的な改善と運営努力に、私自身も一利用者として引き続き注目していきたいと思います。
なお、このような官民連携のインフラプロジェクトでは、契約面や行政対応において、専門的な調整やサポートが求められる場面も少なくありません。弊社では、法務や税務をはじめとする各分野において、日本企業の皆さまの現地事業をご支援しております。お困りのことがあれば、お気軽にご相談ください。
都市インフラの発展とともに、ジャカルタでの移動手段やその利便性も大きく変わりつつあります。もし、まだMRTを利用されたことがない方がいらっしゃれば、弊社をご訪問いただく際などにぜひ一度試してみてはいかがでしょうか。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
参考:清水建設株式会社ホームページ「ジャカルタMRT南北線工事 全体計画」より