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よもやまノンキインドネシア (第48回)
「ウルトラカナンと称される高市首相 笑顔で縮めるプラボウォ大統領との距離」

2025. 11. 11 | Others

韓国・慶州で開催されたアジア太平洋経済協力会議(APEC)。各国首脳が一堂に会する舞台で、日本の高市早苗首相とインドネシアのプラボウォ・スビアント大統領の一幕が注目を集めた。話題となったのは、プラボウォ大統領が資料に目を通している際、高市首相がタイミングを見計らい、机に手をかけてイスを滑らせるようにして近づき声をかけた場面だ。プラボウォ大統領も手を合わせ笑顔で応じ、2人は和やかな雰囲気で言葉を交わした。その一部始終は韓国の放送局MBCが動画で報じ、SNS上でも拡散された。この光景に「このコミュ力の高さ」「今までになかった外交」とのコメントが相次ぎ、高市首相の外交の柔らかさを評価する声が広がった。

ただ、日本国内では異なる反応も散見された。「挨拶を返していない」「イスラム教徒の異性に不用意に近づくのは失礼だ」といった形式やマナーをめぐる批判である。だが、こうした声は主にそもそも高市首相に否定的な層から出たものと見られる。実際、インドネシア側から不快感を示す声はなく、地元メディアも批判的な論調では報じていない。高市首相のSNSには控室でプラボウォ大統領と談笑する写真が投稿されており、首脳会議が始まる直前に高市首相がプラボウォ大統領の着席に合わせてお辞儀し、それにプラボウォ大統領が手を合わせて応じる映像も公開されている。つまり、問題視されたシーン以前にすでに十分な挨拶のやり取りが行われていたということだ。

インドネシアは東南アジア最大の経済大国であり、地域外交の要でもある。中国との間で海洋権益をめぐる摩擦を抱える一方、経済的には強い結びつきを持つ。プラボウォ大統領は2024年10月の就任後、最初の外遊先に中国を選んだ。ジョコ・ウィドド前政権から続く「親中路線」を受け継ぐ形のプラボウォ政権だが、日本の存在感を再認識させられる象徴的な機会となったのではないだろうか。

そのプラボウォ大統領は、APECの場で包摂性と公正さを訴えた。「今こそ、APEC加盟国が開放的で、公正かつ包摂的な経済協力へのコミットメントを新たにすべき時だ」と述べ、「非包摂的な成長は分裂を生む。包摂性と持続可能性こそが私たちの羅針盤である」と強調した。貿易ルールを重視する発言は、WTOを基盤とする国際秩序を維持したい日本の立場にも重なる。そうした文脈で見れば、高市首相がプラボウォ大統領に積極的に歩み寄ったのは、単なるフレンドリーな外交ではなく、価値観の共有を探る試みだったとも言える。

また、インドネシア国内では、高市首相の政治的立場にも関心が向けられている。大手紙『コンパス』のSNSは高市首相を「Ultrakanan」と評した。「Kanan」は右を意味し、「Ultrakanan」は「極右」「超保守」といった意味合いを持つ。これまで「保守(konservatif)」という表現しか知らなかったが、この言葉にはより強い国家主義的・伝統主義的なスタンスがこめられているのかもしれない。日本ではすでに高市首相のタカ派的な政策や姿勢が知られているが、インドネシアではそれがさらに鮮明に受け止められているのだろう。

今回に限らず高市首相の外交姿勢は、日本外交に新しい印象をもたらした。笑顔で手を差し伸べ、言葉を交わし、相手との距離を縮める。その姿勢は、政治的立場を超えて人間的な信頼をまず築こうとする表れである。もちろん、外交は社交性だけで成り立つものではない。信頼関係の裏づけには、長期的な戦略と具体的な利害調整が不可欠である。それでも、高市首相の行動は冷静な戦略の上に感情的な共感を重ねるという、ここ数人の日本の首相があまり踏み込めなかった領域を切り開いている。プラボウォ大統領とのわずか数分の会話が、東南アジアにおける日本の存在感を再び印象づける第一歩となるかもしれない。

<大塚 玲央>

1987年長野県生まれ。親の仕事の関係で幼少より転校を繰り返し、高校時代はシンガポールで過ごす。大学卒業後、放送局や旅行代理店勤務を経て現職。2011年よりインドネシア在住。趣味ゴルフ、野球。

大塚 玲央 メールアドレス:reo.fantasista@gmail.com

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※本レポートは筆者の個人的見解であり、PT. Japan Asia Consultantsの公式見解を示すものではありません。