作成者:八木橋 優
世界でも有数の経済成長を遂げているインドネシア。広大な森林、豊かな海、そして若く活力ある人口からこの国の未来への可能性を感じます。
ただ、その一方で、成長の裏にある「代償」に目を向ける機会はそう多くないと感じます。森林伐採による生態系の崩壊や焼畑農業による大気汚染、海を覆うプラスチックごみ。今やインドネシアのみの問題にとどまらず、私たち全員に関係する「地球規模の課題」となりつつあります。このような環境問題をどう捉え、どう行動するか。企業や政府、そして市民が一緒になって取り組むべき時代だと思います。
その鍵となるのが「ESG」という考え方です。
ESGとは、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス)の頭文字をとった言葉で、持続可能な社会の実現に向けた「ものの見方」「企業の評価軸」として近年注目されております。
つまり「利益を出していれば良い」「ルールさえ守っていればよい」といった考えではなく、自然と共存し、社会と調和しながら信頼される会社運営をしていく。そんな姿勢が、今の時代では価値があるとされております。
今回はインドネシアが抱える環境問題を、このESGの視点から見ていきたいと思います。
森林破壊とパーム油:環境(E)の視点から
インドネシアと聞いて、まず思い浮かぶ自然のイメージは広大な熱帯雨林ではないでしょうか。しかしその豊かな森が、今まさに危機に直面しています。
背景には、世界中で使われる「パーム油」の存在があります。食品、洗剤、化粧品、バイオ燃料等、私たちの日常にも深く入り込んでいるこの原料の生産のために、森が切り開かれ、多くの動植物が住処を失っています。特に深刻なのは泥炭地の開発です。これらを燃やして農地に変えることで、大量のCO₂が空気中に放出され、気候変動にも大きな影響を与えています。
ESGの「環境(E)」の観点から見れば、企業がどういった原料をどこから調達しているのか、ということは、今や社会から厳しくチェックされるポイントとなっております。
ヘイズ(煙害)と焼畑:社会(S)の視点から
毎年、乾季になると発生するインドネシアの森林火災。
農地を増やすために行われる「焼畑」は、やがて制御不能となり、大規模な火災を引き起こします。その煙は、国内だけでなく、シンガポールやマレーシアといった近隣諸国まで広がり、健康被害や経済損失をもたらしています。呼吸器疾患を抱える人達。飛行機が欠航し、観光業が打撃を受ける都市。燃え続ける森を止められず苦しむ農民たち。
このような状況は、ESGの「社会(S)」への影響を如実に物語っています。経済活動が、地域社会の安全や健康を損なってしまうのなら、それは「成長」とは呼べないのかもしれません。
プラスチックごみと海:ガバナンス(G)の視点から
海洋ごみの問題も、インドネシアが直面する大きな課題のひとつです。
都市部では大量のプラスチック製品が消費されますが、その多くが適切に処理されず、川を通じ海へと流れ出しています。これは企業の包装設計や廃棄管理、政府のごみインフラ整備、そして消費者のごみ捨て行動といった、複数の主体による「統治(Governance)」の問題でもあります。
ESGの「G」の観点では、企業がどのようなルールを定め、責任をもって行動しているかが問われるように思います。
単に「作って売る」だけでは信頼を得られない時代になってきているのではないでしょうか。そんな中、具体的に私たちはどう動けばいいのか。
次回はESGの視点で、企業、政府、市民、それぞれが果たせる役割を書いてみたいと思います。