News

Categories

Tax

Archives

If you have any requests for content from before 2024, please inform us via 'Contact Us.' We can send you the documents accordingly.

よもやまノンキインドネシア (第62回)
「アザーンの隣でK-POPが流れ続けている 地方都市に広がる韓流映え文化のリアル」

2026. 05. 26 | Others

白を基調にした内装。無機質なテーブル。壁にはハングル風フォントのネオンサイン。メニューを見ると、クロッフル、ダルゴナコーヒー、チーズケーキ、抹茶ラテが並ぶ。しかもBGMは韓国アイドル。店内では若者がスマートフォンを片手に、ひたすら写真を撮っている。しかし外へ出ると、すぐ隣からアザーンが響くのである。この落差が、実に現代インドネシアらしい。

日本では「伝統」と「若者文化」は対立構造で語られやすい。古い商店街と新しいチェーン店が敵対し、年配層が「最近の若者は」と嘆く。しかしインドネシアでは、もっと雑で、もっと柔軟である。巨大モスクの隣に韓国カフェができても、誰も特に気にしない。礼拝へ向かう人々の横で、若者がクロッフルを撮影していても社会は普通に回る。日本ではしばしば「伝統保護」が非常に神経質な議論になる。景観条例、文化保存、街並み維持。もちろんそれ自体は大切なことである。しかしインドネシア地方都市では、伝統と流行が驚くほど自然に共存している。古い市場の横に韓国カフェ。伝統衣装の女性が派手な映え系ドリンクを持ち歩く。イスラム系私立学校の学生がK-POPダンス動画をTikTokへ投稿する。文化が衝突しているように見えて、実際には誰もそこまで深刻に考えていない。ある意味では極めて合理的である。

そもそもインドネシアの地方都市は、いま猛烈な速度で「中間層化」している。ショッピングモールが増え、スマートフォンが普及し、SNSが生活の中心になった。特にTikTokとInstagramの影響力は大きい。若者はジャカルタだけではなく、東京やソウル、バンコクの流行を同時に取り入れている。その結果、「地方都市らしさ」が薄れつつある。かつて地方都市には、その土地独特の空気があった。ローカル食堂、古い市場、独自の服装文化。しかし現在は、どの町へ行っても似たような韓国風カフェが並ぶ。面白いのは、こうしたカフェの多くが非常に“映え”を重視している点である。味より写真。会話より撮影。地方名物よりWi-Fi速度。これは日本でも見られる現象だが、インドネシアではさらに徹底している。なぜなら、地方都市ほど「SNS上の都会感」が重要だからである。若者にとって、TikTokやInstagramは単なる娯楽ではない。「自分は流行から遅れていない」というアピールでもある。ジャカルタへ行かなくても、韓国風カフェへ行けば都会的に見える。つまり、ソウル風内装とは一種の都会的ライフスタイルの演出なのである。

しかし、その一方で町には依然として強い宗教文化も残る。金曜礼拝になれば道路は混雑し、ラマダン期間には生活リズムが大きく変わる。家族や共同体の結びつきも強い。つまり、急速にグローバル化しながら、社会の根幹部分は意外と保守的なのである。この「同時進行感」がインドネシアの面白さでもある。

日本では時々、「伝統か近代化か」という二択で議論しがちである。しかしインドネシア地方都市を見ると、人々はそんな難しいことを考えていないように見える。礼拝にも通い、韓国アイドルにも熱狂する。家族との伝統行事も大切にしながら、TikTokで流行曲に合わせて踊る。全部まとめて生活なのである。その雑多さこそが現代インドネシアの生命力でもある。

巨大モスクの隣でクロッフルを撮影する若者たちは、別に伝統を破壊したいわけではない。ただ、普通に流行を楽しみたいだけなのである。そして町もまた、それを案外あっさり受け入れている。

厳格さと柔軟さ。信仰と資本主義。素朴な生活とSNS承認欲求。

普通なら衝突しそうなものを、深く考える前にとりあえず共存させてしまう。その少々大雑把な適応力こそ、インドネシア地方都市の最大の特徴なのかもしれない。

<大塚 玲央>

1987年長野県生まれ。親の仕事の関係で幼少より転校を繰り返し、高校時代はシンガポールで過ごす。大学卒業後、放送局や旅行代理店勤務を経て現職。2011年よりインドネシア在住。趣味ゴルフ、野球。

大塚 玲央 メールアドレス:reo.fantasista@gmail.com

ご意見・ご感想ございましたら、お気軽にご連絡ください。

※本レポートは筆者の個人的見解であり、PT. Japan Asia Consultantsの公式見解を示すものではありません。